デマンド交通を運行
石川・輪島、珠洲市
能登半島地震から1年が過ぎた。石川県内の特に奥能登地域は、仮設住宅の建設などで震災前と比べて町並みが変わった。対応を迫られるのが公共交通の再編だ。人口減少や災害の影響でバスが運休・減便する中、自動車を持たない“被災者の足”を守るためにデマンド交通が輪島、珠洲両市で運行されている。現状を追った。=能登半島地震取材班
需要に合わせてルート設定
91カ所にバス停
輪島市内に住む80代の女性は、「10年前に免許を返納したから助かっている」という。女性が利用しているのは、昨年8月から市が市街地で始めたオンデマンドバス「のらんけ+」。利用する1時間前までにアプリか電話で予約して乗車できる。
特長は、合計91カ所に張り巡らされたバス停だ。仮設住宅の整備で変化した町並みに対応するため、需要に合わせた停留所を設定。予約時に乗り降りするバス停を選ぶことで、人工知能(AI)が運行ルートを決めていく。
市復興推進課の浅野智哉主幹は「1日当たり30人以上が利用し、想定を大きく超えている」と順調な様子を語る。一方で課題もある。今年4月からは運行エリアを拡大する予定だが、「ドライバーの確保はギリギリの状態。2種免許保持者などの条件緩和を検討している」。
交通空白地に対応
輪島、珠洲両市では、2000年代の鉄道廃止以降、自動車を運転しない市民の移動を路線バスやコミュニティーバスが支えてきた。
地震は町並みを変えただけでなく、公共交通網に被害を与えた結果、新たな交通空白地が生まれた。影響を受けたのは、珠洲市のコミュニティーバス「すずバス」だ。利用無料で市内各地を結び、“生活の足”となっていたが、震災で運休や減便が発生した。
市内に暮らす70代女性は「もう少し本数が増えてくれたらありがたい」と不便さを訴える。
すずバスが通らなくなったルートをカバーするため、市は昨年9月から無料のデマンドタクシーを週2回運行している。開始直後に発生した豪雨災害の影響で一時は運行休止を余儀なくされたが、10月には再開。12月からは路線の変更や延伸をしている。
公明党の田端雄市・能登町議は先ごろ、デマンドタクシー運行を担う「めだか交通」の干場龍一代表取締役と意見交換した。干場代表取締役はデマンドタクシーについて「復興の過程では、必要とされるルートは変わる。柔軟に対応していきたい」と話していた。
市町越えた新たな移動手段も
交通弱者となっている被災者の足を確保するため、石川県は「県能登地域公共交通協議会」を昨年7月に設立した。金沢市と能登地域を結ぶ交通の構築を「第一次計画」として年度内に策定し、来年度は市町の垣根を越えた地域内の新たな移動手段などを検討する予定だ。
国も対応を急ぐ。地域公共交通の再編に取り組む自治体に補助金を拠出。輪島、珠洲両市が始めたデマンド交通事業も本年度、対象になった。
公共交通の再構築について、公明党は昨年5月、岸田文雄前首相へ手渡した「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)に関する提言で、地域公共交通の確保や再構築に向けた支援を要望していた。
党国土交通部会の安江のぶお部会長(参院議員)は「地域のニーズに応じた公共交通の維持に引き続き取り組む」と語っている。
赤字削減を促す仕組みを
公立小松大学 髙山純一教授
奥能登地域は、震災前から▽人口減少▽50%前後の高齢化率▽運転手への低賃金――を背景に需要と供給の両方が減少した結果、1日に数本しか走らないバスなど、最低限の公共交通しか整備されていない。そこに今回の地震と豪雨が追い打ちをかけた。
奥能登の現状は日本の過疎地が抱える課題の縮図だ。バス路線は国・県・地元自治体が欠損補助をするため、交通事業者が赤字削減に取り組むメリットが働かない。そこで、例えば赤字削減をした交通事業者へのインセンティブとなるよう報奨金の交付などを考えてはどうか。また、能登地域全体で次世代移動サービス「MaaS」を立ち上げることも、地域住民や観光客の利便性向上につながるだろう。
そのためにも、公明党には、交通網の充実に向けた十分な復旧・復興予算の確保をお願いしたい。