文科省、全国300校めざす
中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)は8日、「次期教育振興基本計画」を答申し、不登校の児童生徒を支援するための特例校を全都道府県と政令指定都市に設け、全国に拡大させる目標を打ち出した。不登校と特例校の現状について解説するとともに、元文部科学省視学官で不登校支援に詳しく、退官後も民間の立場から教育課題に携わっている亀田徹氏に聞いた。
「教育振興基本計画」は、国の教育政策の方向性や目標を定めたもので、5年ごとに策定されている。答申では、不登校特例校を5年後までに全ての都道府県や政令指定都市で1校以上設置し、将来的には、不登校特例校への通学を希望する児童生徒が居住地にかかわらずアクセスできるように全国で300校設置することをめざすとした。
不登校特例校はカリキュラムを柔軟に組むことができ、学習指導要領にとらわれず一般の学校より授業時間を減らすなど、子どもの事情に配慮して学びやすい工夫をすることを文科省が認めている。
不登校の子どもに学習活動や教育相談などの活動を行う民間のフリースクールと異なり、元の学校から転校できて一般の学校と同様に卒業資格も得られる。2017年に施行された教育機会確保法で、国や自治体による設置が努力義務とされ、現在は、全国10の都道府県に21校設置されている【地図参照】。
全員が高校進学する学校も
不登校特例校の先進校の一つとして注目されているのが、岐阜市立草潤中学校だ。
同校は「学校らしくない学校」をコンセプトに、21年4月に開校。学校が一人一人の生徒に合わせる教育スタイルを実践している。学級担任制ではなく生徒が自ら担任を選ぶ個別担任制を敷き、①毎日登校②週に数日登校して残りはオンライン学習③家庭学習やオンライン学習――のスタイルを1カ月程度の間隔で見直しながら学びを進める。
始業時間は午前9時半で一般の学校に比べて少し遅く、下校時間も午後2時35分。授業は1日4コマで、総合的な学習の時間では自分が行いたい学びに集中できる。下校前には「クールダウン」と呼ばれる面談時間を設け、担任と1日の振り返りなどを行う。
同校の登校率は、出席と出席扱いを合わせると約8割に上り、21年度の卒業生全員が高校へ進学した。同市教育委員会の担当者は、「選択肢が多く自由度の高い学習スタイルに加え、個別担任制で“自分だけの先生”がいることは、生徒にとって大きな安心感につながっている」と分析する。劣等感を抱えている生徒が多い中、「『自分は自分でいいんだ』と肯定的に捉えることができる生徒が増えている」と話している。
公明、提言重ね政府後押し
不登校特例校が注目される背景には、不登校の子どもの増加がある。文科省の調べでは、不登校の小中学生は21年度に24万人を超えて過去最多を更新【グラフ参照】。特に近年は、コロナ禍で生活環境の変化や学校生活の制限が交友関係などに影響し、登校意欲が湧きにくくなっているとの指摘もある。
不登校の子どもを支援するための学校づくりは、「構造改革特別区域法」を活用する形で04年度から一部地域で始まり、05年の学校教育法施行規則の改正で特区申請なしで設置が可能になった。さらに、公明党の推進で16年に成立した教育機会確保法に基づき、自治体に特例校の設置を促している。
公明党は、不登校が急増している現状に対応するため、22年3月に不登校支援プロジェクトチーム(PT、浮島智子座長=衆院議員)を設置し、先進事例の視察や関係者との意見交換を重ねてきた。同年12月には、特例校の設置促進へ夜間中学との併設・連携など多様な設置形態を検討するよう求める提言を政府に提出【写真】。党学生局(安江伸夫局長=参院議員)も今年2月、同様の提言を政府に行った。
また、1月に発表した統一選重点政策でも不登校特例校を都道府県・政令市に1校以上設置するよう訴えている。
元文部科学省視学官 亀田徹氏に聞く
子どもは必ず変わる
「今を認める」姿勢が重要
――不登校支援において重要なことは何か。
亀田徹氏 子どもが学校に行きたがらなくなると、保護者の方は大変心配されると思う。不登校支援では、子どもへの対応と同時に保護者への視点も肝心だと考えている。
保護者の子どもへの向き合い方としてポイントを3点挙げたい。1点目は、学校に行くか行かないかではなく、「あなたはこのままでいい」と今を認めることだ。例えば、不登校になって自宅でゲームばかりしているように見えても、頭の中では一生懸命考えていることが多い。保護者から現状を認められ、自分を肯定できるようになれば、その子なりに前に進んでいくことができるようになっていく。
――保護者にとっては今後の不安も募るのではないか。
亀田 2点目に挙げたいのが、「時間とともに変化する」と捉えることだ。子どもは今の状態がずっと続くわけではなく、必ず変化していく。良い方向に変わっていくためにも、小さな変化を肯定的に認めることがとても大切だ。
とはいえ、現状を認めることは容易ではなく、保護者が1人で抱えてしまうと解決がなおさら難しくなる。そこで、3点目として「自治体の相談窓口に相談したり、不登校の子どもを持つ地域の保護者の会に参加する」ことを勧めたい。保護者の会で悩みを共有できたり、先輩保護者の経験談を聴くことができれば、子どもが今後どう変わるかイメージできるだろう。
――不登校特例校の設置を拡大していく意義は。
亀田 不登校特例校でも、子どもの「今を認める」という姿勢が必要だ。学校に子どもを適応させようとするのではなく、子どもに合わせて学校を柔軟に変えていくことが望まれる。こうした姿勢を学校の理念として明確にし、教育委員会や学校の教職員、保護者といった関係者で共有できるかどうかが重要である。
これからの社会は、一つの決まった正解を見つけるのではなく、試行錯誤を繰り返しながら新しい価値を創り出すことが求められる。教育においても、学び方や学ぶ内容を選択できる環境を整える。子どもが好きな学びを選択して努力し、それが学校や社会で認められる。自己肯定感が育成されることで、学びの幅も広がっていく。
この点で不登校特例校は、今後の教育がめざすべき方向性を先んじて取り入れた存在と言える。今回、特例校を将来的に300校設置する方針が打ち出されたが、特例校の特長を他の学校でも取り入れる動きが出てくるだろう。いずれ、不登校特例校とその他の学校の垣根がなくなっていくことが望ましい。
体制充実し丁寧な指導を
――設置拡大への課題は。
亀田 まずは、教職員などの人員配置だ。一人一人の子どもに丁寧な指導を行うためには、指導体制の充実が欠かせない。新しいタイプの学校なので、どのような学校にすればよいか判断が難しいこともあるだろう。市町村は財政支援なども含め、都道府県と連携・相談しながら検討を進めることが重要だ。その際、特例校を単独校として設置するのでなく、既存の公共施設を活用して分教室型で設置したり、既存の教育支援センター(不登校の子ども向けの教室)を分教室と位置付けたりといった工夫も考えられる。
スクールソーシャルワーカーや福祉施設での勤務経験者など専門家の力も必要だ。福祉と教育両方の視点を学校の機能として備えてほしい。
――各特例校の理念も問われるのではないか。
亀田 非常に重要な点だ。ただ、これまで小中学校を設置する場合、市町村が各学校の理念やコンセプトを考えることはあまりなく、そうした検討作業に慣れていない。
特例校という新しいタイプの学校の設置を検討するに当たり、まずは、保護者から直接話を聴き、可能なら子どもからも話を聴くことが理想だ。保護者がどんなことに困り、どのような学校を望んでいるかなどを的確に捉えたうえで、自治体が保護者と共に一緒に考えていくことが求められる。不登校の子どもの保護者が自ら声を上げるのはなかなか難しい。
地方議員の方々には、自治体と保護者との橋渡し役として、保護者の声を聴く場の設定などに取り組んでいただきたい。